学名について

はじめに

2004年6月30日「このページは何?」を追加しました。

2003年2月15日「品種」についての説明を見直しました。

  1. このページは何?
  2. 生物の分類
  3. 学名の構成
  4. 学名関連のリンク
  5. 学名の小史
  6. 参考

このページは何?

個々の生き物のページで学名を記載している際、学名の構成に疑問をもってきました。同じ生き物でも図鑑によっては年代がついたり括弧がついたりなど、表記が多少違うものがあったからです。

単語の順番や括弧の意味等知っていないとまずいんじゃないかと思いはじめ、調べてみました。その結果がこのページになります。

学問は様々な分野が関連しあっています。学名に関しても、真に理解するには生物だけでも様々なことを知り考察し理解する必要があると思っています。特に生き物の分類や種に関するものは、私の理解の範疇を越えています。――とはいえ生物の分類についても書かないと構成について書けなくなってしまうので、下記の生物の分類は私が理解した範囲でかなり適当に書いてます。

このページは主に学名の構成について触れています。私以外の方にとってもなんらかの役に立つようなことがあれば幸いです。

生物の分類

生物の分類に限らず、似たようなものを集めたのが「種」、似たような種を集めたのが「属」になります。

んじゃ、似たようなものって事の基準はなんじゃい、ということになります。こないだ道を尋ねてきた滅茶滅茶綺麗で清楚で丁寧な喋りのおねーちゃんと愛想皆無の某店のおっさんとは絶対に同じ種じゃないぞとか、象とキリンは足が4本なので同じ種か?とか、こっちのヒマワリは葉っぱが緑だけどあっちのは少し白っぽい、これは別の種か?とか、あの鳥は雄と雌とで模様が違うけど違う種としていいのか?とか、いろいろと問題があります。

この辺は今でもややこしい話があるみたいなんで端折ることにしまして(私もよくわかってないのよ)、とりあえず綺麗で清楚なおねーちゃんも愛想皆無のおっさんも始皇帝もエリザベス1世もこれを読んでいるあなたも、同じ「ヒト」という種の中に入るのは判るんじゃないかと思います。

最初植物等は形で分けてましたが、そのうち生殖して永続的に繁栄できるかという点も重要になり、今に至っているようです。

さらに、「種」だけで生き物を分類していては非常に膨大な項目ができます。パソコンでハードディスクを使っている方なら、いろんなソフトやデータをそのままハードディスクに入れるのではなく、フォルダ(ディレクトリ)を作って分類して入れていると思います。その方が整理するにも実際に使用するにも判りやすいからですね。生き物の分類でもこういったフォルダが作られました。これが、似たような種をまとめた「属」です。さらに似たような属は「科」にまとめられ、さらに……、というふうに階層ができていきました。「似たような」というのは脚の数や雄しべの数といった特定の箇所だけでなく、姿形を総合的に捉え、進化の系統というのを考えたうえで判断したものです。20世紀に入ってからは分子生物学なるものが誕生し、DNAレベルでの変異や相互関係からの判断も重要になってきている……、のかな?

ということでさまざまな方の努力で分類が進むにつれ、分類の階級ができていきました。おおざっぱに書くと以下のようになります。

一番大きな分け方の単位「界」は、リンネの頃は植物界と動物界の2つでしたが、今はこれを5つにする説が勢いがあるそうです。

余談ですが、「界」という単位、英語では「Kingdom」と言います。直訳すると「王国」。さすがに「動物王国」とか「植物王国」って訳ではナニなので日本語では「界」になったのかな。「Muthugoro-Kingdam」はこの話と関係ありません。

綱や目で分けたけど、もうちょい細かく分けたほうがいいなって時には「亜」がついて、それぞれの下に亜綱、亜目なんてのが作られたりします。他にも「群」や「節」なんてのもあるようですが割愛。

種で分けたけど、もうちょい細かい違いがあるなって時には、違いの度合によって以下のような分類が作られます。

  1. 亜種
  2. 変種(植物の場合)
  3. 型(植物の場合・品種と呼ぶ場合もある)

馴染み深い「哺乳」「爬虫」というやつは、分類学でいうと綱のクラスになるようです。「類」は単にまとめたものって意味合いのモノで、分類階級の呼び名の中には入らないようです。

ちなみにヒトの場合は以下のようになります。

ヒト
動物界 Animalia
脊索動物門 Chordata
亜門 脊椎動物亜門 Vertebrata
哺乳綱 (哺乳類) Mammalia
亜綱 獣亜綱 Theria
下綱 正獣下綱 Eutheria
サル目 (霊長類) Primates
下目 サル下目 (狭鼻猿類) Catarrhini
ヒト科 Hominidea
ヒト属 Homo
ヒト sapiens

以上の分類は、岩波生物学辞典第4版の生物分類表に基づくものです。属と種の他の分類の仕方は、人によって違う場合があります。

今存在しているヒトは1科1属一種です。

ちなみにジャワ原人は Homo erectus erectus、北京原人は Homo erectus pekinensis となり、ヒト(現世人)とは種が違い、ジャワ原人と北京原人とは Homo erectus の亜種ということになってるようです。ちなみに明石原人の学名が Nipponanthropus Akashiensis と紹介される時がありますが、これは学名ではなく、便宜上の通称です。

恐竜のティラノサウルス・レックスなんてのも学名で、Tyrannosaurus rexという綴りです。生物分類の中にも入っており、爬虫綱のリュウバンキョウリュウ目 Saurischia(竜盤類)の中の生物です。このようにすでに絶滅している生物にも学名がついてたりします。

ただ、生き物によってはどの区分に入れるか研究者によって意見が様々にあるものがあります。のちの研究でこの生き物は別の区分に入れたほうがいいことが判り、移動するという事もあるんですね。「種」は実際に存在する(存在していた)モノですが、それより上の組み合わせからなる単位は様々な人々のいろいろな研究から判断されるものです。その判断によって学名が変化する場合があります。ということで、学名は未来永劫変化しないという性質のものではないようですね。それは分類学の進歩というものを意味しているのかもしれません。

変化した場合は学名に併記する命名者のところを円括弧でくくるといった決まりがあります。ただ命名者は略して書かれる場合が結構多いみたいです。そうなると昔から同じ学名なのか変わった事のある学名なのか判らなくなりますが……。普通は命名者や命名年まで書かなくても支障がなさそうなので構わないかもしれませんが、正確さを記す場合にはきちんと書いたほうがよさそうですね。

学名の構成

基本

モウセンゴケ(植物)Drosera rotundifolia L.
構成 属名 種小名 命名者
学名 Drosera rotundifolia L.
意味 丸い葉の リンネ(人名)
マツバイ(植物)Eleocharis acicularis Room. et Schult. var. longiseta Sven.
構成 属名 種小名 命名者+命名者 次は変種名を示す 変種名 変種名命名者
学名 Eleocharis acicularis Room. et Schult. var. longiseta Sven.

亜種、変種、型(品種)、?種

鳥のつばめの属 Hirundo
つばめという種 Hirundo rustica L.
つばめの亜種ツバメ(日本等東南アジア生息) Hirundo rustica L. gutturalis Scopoli
「カブトエビの一種」という場合 Triops sp.
「カブトエビの複数種」という場合 Triops spp.

属名の変更

後に属名などが改められた場合、最初の命名者を括弧でくくって、変更があったことが判るようにします。

発表当時のアメリカカブトエビの学名 Apus longicaudatus LeConte
現在のアメリカカブトエビの学名 Triops longicaudatus (LeConte) Longhurst

Apusという属名は鳥類のアマツバメ属に使われたので、後にTriopsに変更、その後多数に分かれた種を Longhurst 氏が4種にまとめあげた。アメリカカブトエビはその内の一種。

亜属

属名の後ろに括弧付の単語が書かれる場合があります。これは属の下の亜属というのがある場合の表記です。

鳥の雉(きじ) Phasianus (Colchicus) versicolor Vieillot

Phasianus属の Colchicus亜属にいることを示している。

植物と動物の命名規約の違い

命名規約にはいろいろあります。

植物の場合はさらに国際栽培植物命名規約というものがあります。また、ウイルスは別の命名規約があり、二名法をとっていないようです。

動物、植物、細菌についてはそれまでの命名などを含む研究の習慣の違いから、それぞれの規約は少しずつ異なった点があります。例えば動物の場合、属名と種小名が同じものがいますが、植物ではそういう例はないようです。

和名「ごてんあなご」 Anago anago (Temminck et Schlegel)

極めて覚えやすい学名です。

動物、植物等、各種の生物命名規約を統合した生物命名規約を作ろうとする動きがあります。「BioCode」と呼ばれるものですが、この先どういうことになるかはまだ判りません。

学名関連のリンク

学名に関しての説明があるところです。興味がある方は是非行ってみてください。

動物命名法解説「Site CXJ11255」内
学芸員1号さん
これは、分類学のプロもしくはハイ・アマチュアの方々を想定したかなり深い解説です.しかし、アマチュアや初学者の方々からでも質問があれば、誠意を持って回答・解説したいと思っています。とのことです。暫定版ですが勉強になります。
生物の名前と分類
横川浩治さん
うちのページよりよっぽど参考になると思います。

学名の小史

国名はそれぞれ当時のものを使用。日本語表記の人名及び本の題名は訳者により異なる場合があります。

紀元前4世紀 ギリシャ
アリストテレス 動物分類
紀元前300年頃 ギリシャ
テオフラストス 植物分類
15世紀後半から ヨーロッパ
イタリア・ルネッサンス
17世紀 ヨーロッパ
博物学の進歩 キリスト教観による、神の創造した世界を理解するための手段

二名法以前の種の名前は 属名+種名(種正名)からなっていたようです。

種名(種正名)というのはその種の特徴をずらずら書き記したもので、単語が10語を越えるのもあったようです。名前であると同時に特徴を表わす説明文の役割もありました。属名も2語以上のがあったようです。

1686年 イギリス王国
ジョン・レイ、『植物誌』刊行。「種」を初めて定義
1694年 神聖ローマ帝国(現・ドイツ)
ルドルフ・ヤコブ・カメラリウス、植物の雄しべと雌しべの役割を発見。動物と植物が生殖において共通点を持つことが判った
同年 フランス王国
ツルヌフォール、『基礎植物学』刊行。「属」という分類階級を確立
1700年
ツルヌフォール、『基礎植物学』ラテン語版刊行。フランス語圏外に広まる
1735年 スウェーデン王国
リンネ、『Systema Naturae』(自然の系統、自然の体系)刊行。動物に「属」の概念をあてはめる。植物に雄しべ、雌しべの数等からなる分類「性の体系」をあてはめる(その後衰退)
1745年 スウェーデン王国
リンネ、『スウェーデン植物誌』刊行。植物の長い学名の代わりに番号を使う
1751年 スウェーデン王国
リンネ、『植物哲学』刊行。番号の代わりに種小名を用いる
1753年 スウェーデン王国
リンネ、『Species plantarum』(植物の種)刊行。植物の分類で全面的に種小名を採用。植物に関しては、この本の刊行以降の学名が有効なものとされ、それ以前のものは認められない
1758年 スウェーデン王国
リンネ、『Systema Naturae』第10版刊行。動物の分類で全面的に種小名を採用。動物の学名は1758年1月1日以降のものが有効なものとされ、それ以前のものは認められない

特徴をずらずら書いた種正名を用いてた時には、学者によって見いだす特徴が違ったりすると同じ生き物なのに種正名が違ってしまうという事があります。

「同じ属で新しい種が見つかったぞ。特徴は葉が細長くてトゲがあって赤いぞ」
「あっ、そういう種正名のはもうあるやんけ。でも特徴から言ったら今回の方が名前にぴったりやなあ」
「前に種正名付けたやつの方は、こいつよりちょっとトゲも丸いし葉も丸いわなぁ」
「ほな何かい、前につけたやつ、種正名変えなあかんのかいな」
というふうな事も起きかねません。(起きたのかな?)

リンネの二名法での種小名は、とりあえず特徴を示しはするものの、単なる記号にすぎないので、後でその特徴を強く示す生き物が出てきてしまったとしても種小名を変更する必要はありません。

例えば人間のの名字の場合、里のまん中あたりに住んでたから「中里」と付けられた人がいたとします。その人が南の方へ引っ越ししたからといって「南」と改姓する必要はないですね。「中里」と付けられた理由はあるけど、一度付けられたらそれは単なる「記号」となり、必ずしも「里のまん中に住んでいる」事を意味するものではなくなるのです。

種正名を用いるやり方は廃れ、便利なリンネの二名法が主流になっていきました。

18世紀後半〜19世紀
生物分類増加。混乱を来す
1842年 イギリス王国
英国学術協会(イギリス科学振興協会)、動物命名に関する規約を制作。編纂委員長Stricklandにちなんで、Stricklandian Code(ストリックランド規約)と呼ばれる。編纂委員にはチャールズ・ダーウィンもいた。規約自体は国際的なものとはならず
1859年
チャールズ・ダーウィン、『種の起源』刊行。徐々に自然を理解する手段(特に生物学)から「神」が除外される事になる
1867年 フランス帝国 パリ
第1回国際植物学会議 最初の国際植物命名規約発表するが英、独、米などは従わず
1881年 イギリス王国
チャールズ・ダーウィン、費用を負担するので全植物の学名目録をつくるよう、キュー植物園所長フッカーに提案
1882年 イギリス王国
キュー植物園、植物の学名目録作成にかかる
1889年 フランス共和国 パリ
第1回国際動物学会議 国際的に通用する命名規約案提出。Blanchard Code(ブランチャード規約)と呼ばれる
1892年〜1895年 イギリス王国
キュー植物園、『キュー・インデックス』刊行。リンネ『Species plantarum』から1885年に刊行された出版物に現れた種子植物すべての学名を掲載
1901年 ドイツ帝国 ベルリン
第5回国際動物学会議 国際的な命名規約の草案承認
1905年 オーストリア・ハンガリー帝国 ウィーン
国際植物学会議 国際植物命名規約発表 アメリカ従わず
1930年 イギリス王国 ケンブリッジ
国際植物学会議 国際植物命名規約発表 植物に関して国際的な命名規約が発効。日本の植物学者は政府から費用が支給されず、参加できなかった
1958年 イギリス連邦(連合王国) ロンドン
第15回国際動物学会議 命名規約大改訂
1961年
国際動物命名規約 英仏語で刊行。動物に関して国際的な命名規約が発効
1999年
国際動物命名規約第4版 英仏語で刊行
2000年
1月1日をもって国際動物命名規約第4版 発効

参考

何冊かの本を参考にしたんですが、それを記述しておくのを忘れてしまいました。以下の本以外にも参考にしてるものがありますが、おいおい書きたしていく事にします。

岩波生物学辞典第4版
編集:八杉龍一、小関治男、古谷雅樹、日高敏隆
発行:岩波書店
定価:9500円(本体9223円)
発行日:1996年7月12日 第4版第2刷
ISBN4-00-080087-6
生物学名概論
著者:平嶋義宏
発行:財団法人 東京大学出版会
発行日:2002年10月7日 初版
ISBN4-13-060181-4

あと、学芸員1号さんに助言、指摘などいただきました。どうもありがとうございました。

2003年にはgoostakeさんからもご指摘いただきました。どうもありがとうございました。

文書更新履歴

2004年6月30日より前
時々文章を改訂。
2004年6月30日
冒頭にこのページは何?を追加。
2005年9月12日
このページは何?を簡略化。学名関連のリンクからwikipediaを削除。
lf-x1@coomaru.com
公開:1999年9月15日
更新:2005年9月12日
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